リスクを価値に変えるERM

経営企画部門が牽引する全社ERMの深化:戦略実行を確実にするリスク文化醸成と部門連携

Tags: ERM, 経営企画, リスク文化, 部門連携, 戦略実行, 企業価値向上, リスク管理

全社的リスク管理(ERM)は、現代の企業経営において不可欠な要素となっています。不確実性が高まるビジネス環境の中、リスクを単なる脅威として捉えるだけでなく、経営戦略と一体化させ、企業価値創造の源泉とすることが求められています。このプロセスにおいて、経営戦略の策定・推進を担う経営企画部門は、ERMを全社的に推進し、深化させる上で極めて重要な役割を果たします。

経営企画部門が担うERM推進の役割

経営企画部門は、企業の羅針盤となる経営戦略を描き、その実行を支援する中核部署です。ERMを効果的に機能させるためには、これを経営戦略と紐づけ、組織全体の活動に統合する必要があります。経営企画部門は、その戦略的視点と全社横断的な立場から、ERMの推進役として以下の主要な役割を担うことが期待されます。

全社的なリスク文化醸成に向けた実践的アプローチ

リスク文化は、組織全体のリスクに対する共通認識、価値観、行動様式を指します。経営企画部門が主体となり、以下のステップでリスク文化の醸成を図ることが考えられます。

  1. 経営層の強いコミットメント: 経営層がリスク管理の重要性を明確に示し、自らリスクに関する議論に参加することが不可欠です。経営会議でのリスク報告の定例化や、リスク選好度に関する議論への積極的な参画を促します。
  2. 共通言語とフレームワークの導入: 全社共通のリスク分類基準、評価基準、用語を定義し、浸透させます。主要なERMフレームワーク(例えばCOSO ERM 2017)のプリンシプルを参考に、自社に合った原則を定めることも有効です。
  3. 継続的な教育・研修: 全従業員を対象としたリスク管理に関する基礎研修から、部門責任者向けのより実践的な研修まで、階層に応じたプログラムを継続的に実施します。eラーニングやワークショップ形式など、多様な形式を取り入れることで理解を深めます。
  4. コミュニケーションの活性化: リスクに関する情報をオープンに共有する仕組みを整備します。社内報、イントラネット、タウンホールミーティングなどを活用し、リスク事例や対応策、ERMの取り組み状況などを定期的に発信します。特に、リスクを正直に報告・議論することの重要性を繰り返し伝えることが大切です。
  5. 成功体験の共有と称賛: リスクを早期に特定・対応した事例や、リスク管理活動を通じて戦略目標達成に貢献した事例などを社内で共有し、関係者の努力を称賛します。これにより、リスク管理へのモチベーションを高めます。

部門間連携を強化し、リスク認識を統一する仕組み

全社ERMの実効性を高めるためには、部門間の壁を取り払い、共通のリスク認識を持つことが重要です。経営企画部門は、以下のようなアプローチで部門間連携とリスク認識の統一を推進します。

戦略実行におけるERMの活用

ERMは単なるリスク回避のための活動ではなく、戦略目標達成を確実にするための「攻め」のツールです。経営企画部門は、戦略実行プロセスにおいてERMを積極的に活用することを推進します。

経営に貢献するERMへ:経営企画部門のリーダーシップ

経営企画部門が、ERMを単なる管理体制の整備に留めず、上記の通り全社的なリスク文化の醸成、部門間連携の強化、そして戦略実行への統合を主導することで、ERMは真に経営に貢献するツールへと進化します。

リスク管理活動を通じて得られる洞察は、より現実的でレジリエンスの高い経営戦略の策定を可能にし、不確実な環境下での迅速かつ的確な意思決定を支援します。また、組織全体がリスクに対して共通の意識を持ち、連携して対応することで、予期せぬ危機への対応力が高まり、事業継続性の確保に繋がります。

経営企画部門がこれらの取り組みを継続的に推進し、ERMが企業文化として定着することで、リスクを機会に変え、持続的な企業価値向上を実現していくことが可能になります。これは、まさに「リスクを価値に変えるERM」の中核をなす考え方と言えるでしょう。